ダイバーシティの推進


【SDGs】
海外生活を経験して、「日本の職場での日本人男性」とは違う立場の視点を持つようになった。海外の職場では、日本人というのは少数派になる。ラボによっては男性も少数派になる。つまり、これまで圧倒的多数派であった「日本人男性」という部類が圧倒的少数派になる。これにより居心地が悪いと感じる機会も稀にあった。この経験から、日本の職場における少数派の方も居心地が悪いと感じる時があるのではないか、と思うようになり、今は、多種多様な人材が活躍できる環境を目指している。また、日本にいた時は「平等=同じ待遇」という認識だったが、長期の海外生活をすることで「平等=個人に合わせた待遇」という認識に代わった(前者の認識を持っているときは、AA採用を受け入れ難かった)。人種、性別、年齢、宗教、障害などによらず、全員が最大限のパフォーマンスを出せるよう、手探り状態で試している。

一部の人種に固まったグループに混じることは、他の人種にとっては心の障壁となる。欧州の友人が言うには、中国・韓国・日本人で固まっている研究室に所属することは、気持ちの上でバリアとなるようだ。例えば、日本人学部生から人気のラボは大抵成果が素晴らしいが、欧米の人にとっては行きにくいことがあるそう。ましてや、ラボ内の言語が日本語だと、誰も来ない。他の欧州の友人が言うには、日本にも興味のある研究室があるが、装置の使い方などが全て日本語だから行きたくないそうだ。優秀な友人に言われると辛いものがある。

人種の障壁を破る早道が、外国人ポスドクの雇用である。ラボ内の人種が偏ってきたな、と思ったら、少数派の人種のポスドクを積極的に雇うと良い。少しずつだが、自然と優秀な研究者が世界中からくる。一旦、試しに募集してみてほしい。そして、その外国人ポスドクからの改善点や不満を聞いてみてほしい。あなたが配慮できていないことが、いかに沢山あるかを思い知らされるだろう。”魅力的なラボ”を長期的に運営していくには、多角的・学際的・国際的な視点が必要だと思う。

米国に住んでいて年齢を聞かれたことが殆どない。日本での根強い年齢認識は、時に質疑応答などでバリアとなる。もうM2なのにこんな質問をしていいのか、もう30歳だから今更大学に戻るのはよそう、など。本質的な学ぶ機会が失われていると思う。ラボでは、年齢関係なく教えあうことを大事にしてる。各個人が専門分野を持っていることの認識が最重要であり、詳しい人が学びたい人に教えればいい。更に、シニア研究者の協力も取り入れられると、その知識と経験は変え難いものがあるので非常に強力である。高齢の方や目の悪い方でも使えるような、大きな時計やスイッチなど、設定や設備も備えておくと良いかもしれない。

例え車椅子に乗っていても、理論系を中心に研究をすることができると思う。実験は確かに難しいが、なんとか実験設備を工夫できないものだろうか。妊婦でも、(希望があれば)安心して職場に来れる環境を整えられないだろうか。オフィス家具を調べても、障害のある方や妊婦に優しい職場向けのものは見当たらない。今後、様々な工夫がされていくことを切に願う。

こういったダイバーシティを無視して、若い日本人男性しか活躍できないラボのPIは、マネージメントを放棄している、と言える。「深夜も土日も実験しないと博士を修了できないよ」とか言っている指導員は、PIとしてしょぼすぎないか?確かにあなたは我武者羅に実験して、今のポジションまで就いたのかもしれない。でも、「(あなたと同じようにしないと)博士を修了するのは無理だ」というのは、思考停止していないか?平日9-17時のみの研究時間で、学生の間に妊娠・子育てすることになっても、事故で車椅子生活になっても、(卒業が伸びるかもしれないが)博士課程をちゃんと修了できる環境を整えるのがPIの仕事ではなかろうか?どんな環境でも博士修了後の就職先が企業であろうが大学であろうが、ちゃんと活躍できるだけの能力をつけさせるのが、PIの仕事ではなかろうか?


【高齢者】
体力・視力・筋力が落ちてくる一方で、知識・経験・技術が豊富にある方をどのように生かすか。少子高齢化の最先端国である日本で対応策をいち早く確立することは、世界の大学にとって意義深いと思う。日本の高齢者は、週3日で1日5時間以内の勤務を好んでいるようだ。この限られた時間で結果を出してもらうには、どうしたらいいか。

結果と言っても、お金に変える価値のあるパフォーマンスを出してもらえばいいので、必ずしも実験結果や論文執筆をしてもらう必要はない。技術・安全指導や装置改良・保守管理・トレーニングといったラボマネージャーが一つではなかろうか。装置購入の見積・営業との応対、長年のネットワークを生かした共同研究のコネクション作り・繋ぎ役、産学連携シンポや学会でのポスター発表、中学・高校生向けサイエンス講座、発展途上国への技術支援などもできるかと思う。これらの仕事を代理してもらうだけで、PIとしてはかなり助かるはずだ。


【女性】
博士卒後で最も若くて28歳、そこからポスドクや特任助教を3~5年減ると35歳くらい。知識量が豊富で技術レベルも高く、活発に研究できる時期に出産適齢期が重なる。そこでパーマネント職に就ければいいが、最近の大学は任期制が主流。業績を上げ続けないと、次の職が得られず、研究者としての道さえも閉ざされてしまう。たとえパーマネント職でも、昨今の大学は人件費が不足しており、妊娠・出産で職場を離れるのが難しい場合がある。

実際、妊娠している女性を目の当たりにすると、本当に辛そうだ。妊娠して3か月くらいすると、車に酔っている状態が1~2か月ずっと続く。その後、お腹が大きくなってきて、動きづらくなる。食事や体力、集中力も落ちる。どのような感じなのかは、下記のリンクがとても参考になる。研究をする余裕なんてなさそうだ。

妊娠・育児中の研究のスタイル(長岡先生)
0歳児を抱えながらの研究生活
 
では、いつ出産するべきか?米国の友人は、ポスドク中やテニュアトラック期間中に妊娠していた。彼女らからは、「出産するのは、学生の間かポスドク中か教員になってからか、どれがいいかは分からない。いつでもいい。その時その時でなんとかなる」との回答を聞く。つまり、人それぞれでベストなキャリアはない。狙った時期に出産できるものでもない。時期よりも、周囲の皆が祝ってくれ、サポートし合える環境に身を置いていることがベストかもしれない。米国では、ラボのメンバーが出産前にベビーシャワーなどのイベントをしてくれたり、出産後は事務員にも赤ちゃんのおめでとうメールが回ってきたりする。妊娠・出産がとてもめでたいことであるのは、日本でももっと認識されるべき!

妊娠の基礎知識(mamari)

「妊娠してしまった。教授に言いづらい」と思わせるラボは、たとえ研究成果が素晴らしくても避けたほうが良い。実際にポスドクの仕事が鈍ると首にするPIの話を耳にする。プロジェクトを進めないと研究費を打ち切られるとなると、PIの気持ちも分からないでもない。だが、ポスドクに文句を言う前に、対策を立てられないか?そもそもポスドクを雇うのであれば、研究スキルを磨き上げ、新たなPIとして活躍できるように育てるのも、PIの務めの一つである。ポスドクや学生が妊娠したり障害を持つことになったときに、どうやってこれからのキャリアを積むかを一緒に話し合う方向に考えがいかないものか?

出産後に復帰する際、40代だと、企業では管理職以外の採用がほとんどない。大学教員でも、若手用の研究費・助成金に出せないので、研究室の立ち上げ・運営が苦しい。現在、「40歳前後の博士持ちを研究員として一時雇用し、論文・学会発表・研究費獲得してもらう」、「妊娠前に蓄えたデータを使って、出産・育児中に小出しで論文を投稿してもらう」ことで、その次の教員や正社員へのキャリアに繋げられないかを模索中。

出産後も生活は大変で、2人以上の育児をするとなると、仕事どころではなくなる。パートナーの協力は必須で、それに加えて、可能な限り仕事を効率化しておく必要がある。大学教員の場合、ネットに繋がったPCさえあれば、多くの仕事を在宅でできるようになってきている。
  • 物品発注などPDF関連は全てPC(電子署名)でwebから
  • ハンコも写真で取り込んで、署名を使うと楽(セキュリティは不明)
  • 荷物の発送は、webから印刷。クロネコなら送り状を印刷できる
  • 封筒で送る場合は、ラベルシールを使うと便利
  • 学生との連絡はslackまたはTeams。返信が楽、重要メールに埋もれない
  • 授業資料・スライドは全てTeamsにupload。印刷物は配布しない
  • 出席・アンケートはmanaba
後は、授業をstreamにuploadすれば…大学教員でも、10-15時勤務とか在宅勤務できるのでは?小さい子供のいる家庭に優しくないですか?いろんな仕事をもっと簡略化できないだろうか?

オンライン講義

実際女性を雇用してみると、配慮が足りなかったなと思うことが多く、勉強になる。白衣や手袋のサイズがLしかないとか、装置の止めねじが堅いとか、機器のボタンの場所が高いとか。会議を17時以降にすると参加できないとか、乳幼児がいるとスケジュール通りにいかないとか。私のラボにも、女性や外国人、高齢者にとって働きにくい点が、まだまだあるんだろうなぁ…

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