論文投稿と助成金申請の結果

【初年度】
着任後、研究費150万円/年(若手研究B+校費)・学生数0人でスタートした。まだ自分の実験室を所有してない状況だったが、共用設備(コアファシリティ)の利用のみで論文出版に至った。終盤、学生時代の友人から実験装置をもらえたこともあり、研究室の立ち上げとしては、うまく軌道に乗れたと思う。

4~6月 企業打合(P1・P2)、自分の実験開始(P3)、共用装置トレーニング
7月 異分野共同研究開始(P4)
8月 国際共同研究開始(P5)
9月 P1・P2共同研究開始
10月 国内共同研究開始(P6)、科研費応募(G1、G2)
11月 国内共同研究開始(P7)、助成金応募(G3、G4)、国際会議
12月 P3論文出版、実験装置設置(E1)、共用薬品処理室の利用整備
1月 助成金応募(G5)、E1ガスライン・電源整備、企業打合→不投合
2月 国際共同研究開始(P8)、G3不採択、卒論指導、産学連携会議(M1)、E1稼働
3月 P6停止(実験失敗)、G4採択、助成金応募(G6・G7)、産学連携会議(M2)、海外大学訪問→共同研究保留

試料:50万
共用設備利用費: 20万
学会参加・出張・論文投稿費:30万
ラボ立ち上げ関連物品費(実験器具・安全・施工など):30万
事務用品(PC・プリンタ・掃除など):20万


【2年目】
研究費1000万円/年・学生数2人でスタートした。主な科研費利用目的を「共用装置の利用費」としたが、30代前半助教ながら分担者なしで基盤Bに採択された。日本でも、講座制でなくても若手が独立できるということが示されたのではなかろうか(審査員の理解に感謝)。研究室が安定してきたので、大きな成果を狙える体制が整った。

4月 国際共同研究開始(P9)、G1採択G2不採択、M2企業先訪問→不投合
5月 助成金応募(G8)、M1打合→不投合、安全機器導入、装置購入(E2)
6月 G2不採択G5不採択G6採択G7不採択、企業打合→不投合
7月 P5論文出版、研究費応募(G9)、助成金応募(G10、G11)、企業向け招待講演
8月 助成金応募(G12)、G9面接、産学連携会議(M3)、E2稼働
9月 国際企業共同研究開始(P10)、P8停止(先方が多忙)、G9採択
10月 科研費応募(G13)、G8不採択、企業打合→不投合
11月 P1論文出版、G10面接、企業向け招待講演
12月 P7論文出版G10不採択G11不採択、企業向け招待講演、装置購入(E3)
1月 P8論文出版、助成金応募(G14)、アウトリーチ活動開始
2月 P2特許申請G12採択、卒論指導、学会委員受諾(C1、C2)
3月 科研費応募(G15;P4の発展)、助成金応募(G16)、学内委員受諾(C3)

試料:100万
E1機器改造・修理費:200万
E2機器購入費:300万
共用設備利用費: 50万
外部委託費:100万
学会参加・出張・論文投稿費:100万
ラボ立ち上げ関連物品費(実験器具・安全・施工など):100万
事務用品(PC・プリンタなど):50万


【3年目】
研究費2500万円/年・学生数3人・ポスドク1人でスタートした。助教3年目ながらポスドクを雇用することができた。まだまだ欧米の30代助教の友人達が持つラボの規模には到底及ばないが、日本でも若手が独立できるように制度が整ってきていると思う。学部・院の授業も持っているし、これでPIとして胸を張ってもいいだろう。もう2~3年かけてラボを完成させ、基盤C+α程度でトップラボを持続・運営できる体制を整える。そして、研究成果を増やし、ネットワークを広げ、新分野を開拓する。

試料:100万
E1機器修理費:100万
E3機器購入費:1200万
共用設備利用費: 100万
外部委託費:100万
学会参加・出張・論文投稿費:150万
人件費:500万
ラボ立ち上げ関連物品費(実験器具・安全・施工など):200万
事務用品(PC・プリンタなど):50万


【感想】
私は、アメリカの教員に習って、0歳児の育児をしながら、日本でテニュアトラックを進めてきた。地方大ながらコアファシリティが充実していたので、アメリカの教員ぽく研究室を立ち上げられたと思う。それでもやはり、お金がないとトップレベルの研究は難しいため、日本に合う形で工夫せざるを得なかった。

工夫点を二つ上げておく。(i)自ら実験する。スタートアップ資金が0だったため(地方大なので仕方ない)、自ら動かざる得ない。お金を取ってくるためには、流行りの研究をするのが手っ取り早い。ただ、スピードと正確性、インパクトが求められるため、教育段階の学生には荷が重い(注1)。企業や助成金からお金を集め、自ら実験することで共同研究先の信頼を得つつ、立ち上げに必要な物品を揃えていった。200万円以上の助成金や科研費には、出せるだけすべて出した。重複が許されているなら両方出した。申請書は実験装置の前で実験しながら書いた。学内や地域の助成金は何件か通っているが、財団の助成金は全て落ちている。難しい。(ii)学生は科研費で実験してもらう。上記の流行りのテーマは陳腐化しやすく、学生の教育には適していない。学生には、好奇心の赴くまま、たくさん失敗をしながら学んでいくことがいいと思うので、好きなテーマで自由に研究してもらっている。これを2年間続けることで、豊富な資金とユニークな研究テーマが立ち上がり、3年目には海外のトップラボとも張り合える環境になったと思う。

ラボを立ち上げている段階で、アメリカとは同じようにはできないと思った点をあげておく。①学生数:米国なら予算次第で何人でも雇えるが、日本では教員一人当たりの学生数が決まっている。助教では1か0人である。基盤Bを取ろうが、研究費が1000万円超えようが、各学年最大一人である。②ポスドクの雇用:日本でポスドクを雇うには、基盤A相当の予算が必要になる。ポスドクを雇えないことには、研究室の立ち上げが加速しない(米国の友人が1年で達成していることでも、日本だと3年はかかる)。学振PDを除いて、助教がポスドクを雇っているケースは稀だと思うが、助教がポスドクを雇用するシステムを確立しないことには海外のラボとの競争には勝てない。③院生の指導:助教は大学院生の主指導員になれない。学部生の指導員になれるが、大学院に進学時は他の教授の研究室に配属され、副指導員として教えることになる(これは独立していると言えるのか?)。研究が軌道に乗って、成果をたくさん出せる段階になっても、①と②のせいでマンパワー不足に陥る。成果が飽和するので、次に基盤Aを出したくても難しいだろう。制度によって完全独立を阻まれている。もちろんテニュアを獲得するまで、ポストは助教のままである。非常に歯痒い。そんな中でも、若手で年1000万円規模の予算を取れるようになってきているので、高額予算でも怯まずに、若手研究者は積極的に応募したほうが良いと思う。年700万円を超えてくると、ホワイトな条件でポスドクを雇える(研究費:200万円、人件費:500万円)ので、マンパワー不足の問題も解消される。同じチームメイトであるポスドクを、ホワイト条件で雇えると雰囲気も良い。

1000万円/年までは、必要最低限のものを購入しようと頭を唸らせて買っていた(これはこれで、考えたり調べたりする時間が無駄になる)。しかも、各プロジェクトの予算は200万円程度なので、共通して使うものでも、合算して使えないのが辛かった。特に困ったのが予算の使途制限でインフラ関係に使えないこと。100万円以下ならまだ融通の利く予算があったけど、100万円を超えるドラフト・除害設置、純水・電源・クリーン設備工事などの費用を捻出するのが一苦労だった。

1500万円/年を超えたとき、研究費使用の効率が悪くなったように思う。私の分野だと、実験機器・消耗品費としては1000万円/年で十分であり、それ以上は全て人件費に充てるのが効率がいい気がする。もちろん、大金をはたいて大型装置が買ってもいいが、最近はコアファシリティが充実してきているので、自分用に買っても、それは税金の使用先としては非効率だと思う。それに、テニュアトラック助教のラボは人数が少ない分、どうしても装置の稼働率が低くなる。

最近では、各研究室の設備を、学外の人も使えるレベルで共用化できるようになってきている。ラボの装置を共用化することで、利用料金がラボにフィードバックされ、その資金でテクニシャンを雇ったりインフラを整備したりできれば、PIの負担が軽減できる。講座制の廃止や設備共用化を推進する中で、日本での新たな研究費システムとしては、この辺りが落としどころではないだろうか?ほんとにちっぽけな日本の科学研究費の中で、大型予算は非常に貴重である。研究費が数千万円レベルになると、研究室単位ではなく、大学・研究機関に出して、共用設備機器として購入させるのがいいのではないだろうか?


注1:指標として60分talkで、背景や実験方法を除いた、実験データのスライド30~40枚相当。工学部の場合、1枚当たり2か月分のデータで、5年で揃うことになる。これがちょうど博士論文に相当する。5枚のデータで論文1報分とすると、5年で6報書ける。これはかなり優秀な博士卒者だ。修士の場合、1枚あたり6か月は要するので、2年で4枚、つまり2年間で論文1報分書ければ、十分素晴らしい。
助教の場合、各学年に修士1人博士0人として、年1報が限界になる。これでは、大きな予算はなかなかとって来れない。予算を多くとるには、年3報以上の論文を書くぐらいの結果が欲しい。そのためには、各学年に修士3名、ラボ全体で10名程度は必要。自分の大学や部署のルールでこの人数を確保できない場合は、追加の年2報分のデータを自分で実験して書かざるを得ない!!

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