5. 科研費・助成金の申請

良い備品を買おうとしても、目標や計画、業績が不十分だと、なかなか採択されない

≪スタートアップ予算≫
当然ですが、研究室立ち上げ時はお金が足りません。前職がポスドクなら持って来れる実験装置もありません(学振PDの人は、ポスドクの間に科研費を獲得しておくことをお勧めします)。そんな若手教員のためにあるのがスタート支援制度です。米国では3000万~1億円(学生やポスドクの人件費込)、日本でも卓越研究員やテニュアトラックでは600万~1000万円もらえます。この初期投資の使い道はとても大事です。長期的かつ慎重に使わなくてはいけません。

スタート支援は、3年以内に論文を書くために絶対に必要なものに使います。購入の先送りを推奨するものは以下です。
  • 大学や公設の共用装置で回せるもの
  • 知り合いから中古で譲ってもらえそうなもの
  • 1年以内に消耗してしまい、且つそれだけでは論文にならないもの
  • 共同研究で進められるもの。ただし、研究の遂行が共同研究で律則してしまう場合は購入を検討する。
装置は後回しでも試料などがないと実験は続けられません。消耗品や細々したものを継続的に確保するために、なるべく早い段階から科研費や助成金に出します。最初は金額が小さくても通りやすいものがいいと思います。米国なら年2000万円程度ですが、殆どが人件費で消えます。日本では人件費が不要な分、若手や基盤C、一般助成金でそれぞれ年100万円程度で、校費はそれ以下です。それでも全体で年300万円程度あれば何とかラボを運営できるのではないでしょうか?論文が出るようになった頃に、より高額の研究費(基盤B、萌芽、さきがけ、ACT-X)に出すのがいいと思います。

私の場合、大学からのスタート支援は0で、他の助教同様の校費分だけでしたが、JSPS若手研究(~100万円)があったので、共用装置を駆使して凌ぎました。その予算で初年度に単著で論文もかけました。ただ、科研費は研究のためにしか使えないため、自分のオフィスの机や学生の居室の備品を購入するには校費しかなく、結構辛かったです。助成金も使途の制限が強いものがあり、インフラ(ドラフト・電気工事など)に投資できない場合が結構あります(カシオ財団はインフラにも使えるはず)。また、多くの科研費・助成金が年度末までしか使えません(JSPS若手研究は基金化しているのでok、あと小笠原財団は通年で使えたはず)。共用設備でラボ運営している人は、春休みの3月に実験できなくなる場合があるので要注意です。総じて、ラボ立ち上げに便利な研究費については、各分野のベテランの方に相談してみるのがいいと思います。


≪国の研究費の種類≫
様々な研究費があります。金額が大きくても、事務手続きが多かったり、使途が限定されすぎていて使いにくい場合があります。出す前に、一度、周りのシニア教員に相談するのがいいかと思います。

文科省
 ・JST(CREST、さきがけなど、トップダウン型が多い。創発は別)
 ・JSPS(基盤、国際共同研究など、ボトムアップ型が多い)
経産省
 ・NEDO
総務省
 ・SCOPE
防衛省
 ・安全保障技術研究推進

防衛省は、金額が最大級です。高額装置の購入も研究者の雇用も可能です。研究費としては、少子高齢化で社会保障費が増大し続けている中で、国内での研究開発により軍事費用を可能な限り抑えたいというのが、最近の政府の考えなのではないでしょうか。もちろん軍事研究と言っても、派遣される自衛隊や国民の命を守るための研究です。少しでも攻撃に使える可能性のある研究は、どの大学でも決して認可されません。ただ、「軍事研究=攻撃に使う技術開発」という認識の思考停止団体が一定数おり、その中には、大学との議論や裁判という正当な手法を取らずに、どんな研究内容であれ申請者の自宅に電凸するという、卑怯な手法を取る団体があるそうです。申請する前に家族と相談しておきましょう。また、大学や研究所間とのやりとりに慣れていないのか、不便な点が多く、随時改善されつつあるという感じです。

総務省や経産省も、金額が大きめですが、産業化が主の国家プロジェクト予算が多く、大学の場合、産学連携が必須です。普段から学会運営などで企業とのつながりを持っていると出しやすいかもしれません。特に経産省では、その研究を産業化することでどのような効果があるか、数値を求められるのが特徴でしょうか。申請額を満額使える一方で、途中打ち切りもあるため、お金の扱いには要注意です。少額でも扱いに厳しく、審査や検査が定期的にあり、手続きも結構面倒です。例えば、PCなどの一般的なものは買うことすらできませんが、もし仮に科研費で購入したPCの増設メモリをNEDO予算で買ったとすると、「そのメモリはNEDOのプロジェクトにしか使わないで下さい」という判断が下ります。つまり、PC本体は科研費で買ったにもかかわらず、他のプロジェクトで使うときには、メモリを毎回外さないといけません。同じようなことが実験装置にも言える、それくらい面倒です。「他では使いません」という誓約書を書いて、押印して郵送することまで求められた方もいるそうです。

どの研究費も税金から来ているため、使途に厳しくて当然です。「この研究のためにこれを買って、このような成果が得られました」と直接的に言えない物を買った場合に、国民やメディアに納得してもらえるはずがないので、上記のPCメモリの話に繋がります。文科省は、金額がかなり小さいですが、融通が利きやすく、研究者にとっては最も扱いやすいです。文科省の研究費が特例と言っても過言ではありません。研究をしていたら、当初想定と違う大発見があったりするので、とてもありがたいですよね。文科省の特徴は、類似の分野の研究者が審査することが多く、ニッチな分野でもよくて、種となる研究でも喜ばれる点です(工学的である必要がない)。一方で、仲間を募って学際的な研究をすれば、新学術や変革のような大規模予算の可能性もあります。


≪様々な助成金≫
どのような助成金があるかは大学がまとめているはずなので、事務に聞いてみると良いと思います。公募要領をよく読んで、提案内容が相応しいか、公募条件に当てはまるか、〆切はいつかを確認します。

申請書類を書くコツは大学がアドバイスしてくれると思います。米国のようにメンター制度があるなら積極的に利用し、指導教員や教授達にコツを聞いてみるのもいいと思います。海外では外部資金が多ければ多いほど学科が潤うので、他の教授や専攻長も研究費獲得には積極的に協力してくれます。初年度は数をこなすのがいいと思います。とりあえず10件くらい出せば、書き方もアイデアもまとまってくるのではないでしょうか?一つ一つが論文を書くのと同じくらい労力と時間が必要ですが、祈られ続けても腐らず頑張りましょう!

・50~200万円、1~2年の規模の研究費
1月:MST京都技術科学センタ金森財団
2月:三菱財団ローム山田科学振興財団
3月:サムコ科学技術振興財団
4月:村田学術振興財団
5月:カシオ科学振興財団マツダ財団キャノン財団
6月:住友財団住友電工基金東電記念財団泉科学技術振興財団伊藤科学振興会
7月:稲盛財団岩谷直治記念財団光科学技術研究振興財団松尾科学振興財団
8月:矢崎科学技術振興記念財団東京化成化学振興財団
9月:旭硝子財団トヨタ財団鷹野学術振興財団
10月:笹川研究助成双葉電子財団東レ科学振興会トヨタ立石科学技術振興財団
11月:国際科学技術財団池谷科学技術振興財団日本板硝子助成会小澤・吉川基金
12月:加藤科学振興会
助成金(工学)の例(総額5000万超え!ぜ、せんぶ出してやるもんね!)

一般的な科研費の申請は10月ですが、スタート支援であれば5月申請です。研究室を立ち上げる人にとって重要なのは、上記の1~4月の助成金です。30代の時だけ出せる助成金も多いので、出せる時に出しまくることをお勧めします。正式に所属していないと出せない場合は、4月に赴任するまでにアイデアを蓄え、書類準備しておくといいと思います。50~100万円のものは、寄付金に感覚が近く、利用先が自由な場合が多いです。実験室の施設工事に使える場合もあります。200万円を超えてくると、提案書に記載した通りに使わないといけない場合があるので要注意です。また、当然ですが、どの助成金も、授賞式出席、報告書提出、報告会出席などが求められます。

・1000万円以上、3~7年の規模の研究費
かなり長期的かつ挑戦的な戦略が求められます。規模が大きいこともあり、国家プロジェクトの様相を呈してきます。夢のようなアイデアでいて、実現性の高い計画が求められるので、申請書作成がかなり難しいです。ヒアリングでは、様々な分野のトップ研究者に詳細を聞かれるので、幅広い視野と綿密な計画性が不可欠です。とはいっても、しっかりと理論武装し、業績を蓄え、計画をちゃんと練っていれば、30代の若手研究者でも十分に通ります。予算規模が大きいこともあり、ステージゲートが用意されていて、進捗が悪いと途中で打ち切りになる可能性もあります。科研費や財団助成金で書くようなアイデアでは、挑戦が足りないということで、1年目にステージゲートが用意されることもあります。最近では若手研究者用に、JSPS学術変革BJST創発研究NEDO未踏チャレンジなどもあります。怯まないで、じゃんじゃん出ししょう!

研究費によっては「エフォートを50%以上確保すること」といった縛りがありますが、研究活動全体に対するエフォート縛りであり、研究費単発のエフォートはそれ以下でも大丈夫なはずです。テニュアトラック教員であれば、研究活動でエフォートを80%以上確保できるのではないでしょうか。私は、NEDOや科研費では、代表は10%単位、分担は5%単位にしています。大学教員であれば教育のためのエフォートも必要ですが、それよりも、研究を続けていると新学術やCREST、NEDOなどの話が回ってきたりするので、エフォート不足に陥らないために20%くらいの余力を残すようにしています。


≪経験談≫
私的な経験をコメントしておきます。ポスドクの頃あたりに、ご自身が将来どのような研究をしたいかを考えた上で、日本の研究予算の概略を頭の中に入れておくと、長期的かつ戦略的に予算を獲得していけるかと思います。予算を3つに分類すると、上図の[A]学術研究、[B]新分野開拓、[C]起業・産学連携になります。自分の研究を深堀したりセレンディビティを念頭に入れているのであれば[A]、CNS論文やノーベル賞クラスの成果を狙っていくのであれば[B]、企業と連携したり自分で会社を起こしたいのであれば[C]の方向で研究費を獲得していくと夢の実現に繋がると思います。図の右に行くほど、実用性が求められることを意識するといいかもしれません(右側の予算は金額が多い一方で、何年後にどれだけの数値を達成するかを計画通りに進めないといけません。左側の予算は金額は小さいですが、比較的自由に研究を進められます)。青色の予算の中には年2000万円のものもありますが、20代でも採択されるので、じゃんじゃん出しましょう!

まずは財団の助成金について。『財団助成金は戦略的に取りに行くもの』だと思っています。「今の研究の延長でこういう研究をすれば面白くなりそうなんだけどお金が足りない。どこかサポートしてくれないか?」というスタンスで申請しても、感触が良くないです。そういうのはJSPS基盤研究が適しています。「こういう研究をすれば画期的な成果が期待できる。金銭的なサポートさえしてもらえれば、結果を出すので、論文の謝辞に載せさせて頂きます」というスタンスで書いています。つまり、毎回、『助成金のためだけ』のアイデアを考えて提案しています。

アイデアとしては、やや実用的である方が感触がよく、今流行りのものが喜ばれるように感じます。10年以上後に着目されそうな挑戦的なものは、審査員には理解されない感じがします。実際、ヒアリングは10分程度しかないので、新分野開拓レベルの話はなかなか伝わらないです。それに、長期的な研究は1~2年ではできないと思うので、そういうのは何名かの研究者と一緒に大型プロジェクトに申請することをお勧めします。

実験計画は、論文1本分になりそうな分量が良いと思います。また、独自性(世界で自分しかできないこと)が重要な気がします。奇抜でいいアイデアと思っても、これまでの研究成果からかけ離れていると印象が悪いです。他のラボでもすぐにできること、単なる条件出しの研究、教科書に既に書かれていることで材料だけをかえたもの、などは全部落ちました。

私の場合、2~3本の関連論文が既に発表済みで独自性があり、その延長ながら流行りに沿わせたテーマが大体通っています。この匙加減は人それぞれなので、初めて出す人でアイデアに困っている場合は、その分野のLetter論文で着目されている辺りのトピックを攻めてみてはいかがでしょうか?私の感覚が間違っていたら、すみません。

助成金によって好みが違うので、採択者情報が参考になるかもしれません。ある助成金の採択課題のテーマに使われている単語をTermextractを使って抽出してみました。「応用」や「開発」、「ナノ」が多いように思います。また、理学よりも工学の方が多いようです。


稀に助成金でもヒアリングがある場合があります。発表用テンプレートがない時は、10分での発表時間であれば、背景(1ページ)、目的・提案内容(1ページ)、これまでの成果(1ページ)、本提案の立ち位置・課題・他機関との比較(1ページ)、研究計画・内容(1~3ページ)、実験方法・使える装置(1ページ)、予算計画(1ページ)を話すようにしています。ご参考まで。

次に、大型予算について。[A]基盤AやBなどは着実な研究、[B]さきがけや創発は突飛な学術的研究、[C]NEDOは実用性のある研究、というイメージで書いています。基盤は、審査員の平均的な評価が大事で、大きなマイナスがあると採否に影響してしまいます。一方、さきがけや創発は、1人でも推してくれる人がいれば採択されます。NEDOは、審査員に企業の方が多いです。

審査方法からしても、基盤は、これまでの成果の延長でよく、着実に成果が出る内容が好まれます。学振と同じかと思います。NEDOは、学術的に深い内容よりも、研究目標を数値で示していくことが好まれます。低炭素社会を目指すのであれば、この研究をすることでXX年後にCO2をXX%削減できる、など。事前にNEDOに情報提供依頼(RFI)をすると、内容によっては提案に則したものが1~2年後に公募されることがあります。もちろん、日本経済の将来を見越し、産学連携を前提とした国プロとして重要な研究開発内容である必要があります。毎年定期的にRFIを募集しているので提案してみるのも良いと思います。

さきがけや創発は、これまでの研究と非連続的な提案であり、これができるとすごいんだ、と熱く語りかけるような内容が好まれます。計画性の乏しさよりも、ワクワクして面白そうだと思わせる方が好まれたりします。異分野融合も好まれます。ただ、さきがけは、挑戦的すぎると落ちます(なぜ?)。「AAができるとBBができ、これまでにない成果が得られる」というレベルの挑戦は創発にだし、さきがけにはもう少し抑えて、AAを予備実験で明らかにした上で出すくらいがちょうど良いです。また、創発は2段階審査されており、1段階目は各パネルの専門分野に関連した、公表されていない方々に審査されます。学際的な内容であれば、アドバイザーに拾ってもらえる可能性がありますが、基本的には、申請内容の専門家のいるパネルを選ぶのが良いと思います。それでも分野の離れた審査員に当たる可能性が高いので、課題と解決策を明確にし、分かりやすく伝えることが重要です。パネルによって方針が異なり、女性や地方大を積極的に採用する場合もあるので、2期目や3期目の場合はこれまでの採択者の特性を見ると良いです。

審査員が同じようにイノベーションや挑戦的な課題を求めていても、JSTでは理学寄り(『~の解明』という題目で50年後に実用化されるかもしれないもの)、NEDOでは工学寄り(『~の開発』という題目で5年後に実用化を目指すもの)に記載することが個人的にお勧めです。NEDOのノリでJSTを書くと「将来性がない」と評価されたことがあります。申請書自体はよく書けていても、このあたりの認識のずれだけで採択されていない可能性もあるので、URAや周囲の採択者に助言を求めてみるのが良いかと思います。

超大型予算について。ERATOや基盤Sは、分野の開拓者やCNS論文で先行していると通るかもしれません。30代の若手でも通っている前例がありますが、基盤Bやさきがけなどで、そのレベルの成果を出してから挑戦するというのが筋でしょうか。ヒアリングが用意されており、数十名の方からの質問をオンラインで浴びせかけられます。


最後に、[A]の流れで進める場合でも、行き当たりばったりの成果に頼るのではなく、長期的な計画を練ったうえで、以下の目的に沿った三つの研究テーマを持っておくことをお勧めしておきます。
  1. (短期: Low risk)企業や海外との共同研究、業績稼ぎ
  2. (中期: Middle risk)学生の教育
  3. (長期: High risk)自分の興味
①のテーマは開発よりの研究で、この成果を活かして研究室をより早く軌道に乗せます。1年に1本は論文出版や学会発表し続け、研究室運営のベース予算を確保します。スピードが問われるので、博士やポスドクがいない間は自分で実験したほうが良いかもしれません。①が50~200万円規模の研究費に適したテーマだと思います。財団の助成金が相当するかと思います。出しまくりましょう。

①だけでは、今後、飛躍的な伸びや画期的な発見は期待できません。②のテーマは基礎的なもので、学生の勉強にもなるものです。時間をかけて深く探求することで、研究室に対して外部からの信頼が得られます。科研費の基盤研究が相当するかと思います。

③のテーマは「どんな研究をしてきたの?」というアイデンティティになるものです。新発見や新分野開拓に繋がるような挑戦的かつ長期的な研究です。コツコツと[A]で進めていく中で、[B]に派生する可能性が生まれます。単独ではできない場合も多々あります。「あなただからこそできた研究」を目指します。③が1000万円規模の研究費に適したテーマだと思います。5~10年に一度、大きな花火が上げれるといいですね。

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