オンライン講義とラボ閉鎖

【はじめに】
コロナウイルス感染対策で、大学ではオンライン講義を求められています。学生実験やアクティブラーニング形式の講義の場合は、オンライン講義に切り替えるのがかなり難しいと思いますが、それ以外の講義であれば対応可能かと思います。

オンラインでの講義方法は様々で、大きく分けて、ライブ配信をする場合と録画動画を配信(オンデマンド型)をする場合があります。ライブ配信をしたいならカメラマンが、録画動画でも人が映るのであれば動画編集の協力者が欲しいです。普段の講義レベルのクオリティを提供しようとすると、どちらも一人で準備するのはかなり難しいです。教員と学生ともにハードルが低い方法としては、スライドに音声をつけた資料をuploadしておき、学生に好きな時間に見てもらうのがいいかもしれません。

遠隔授業教材作成メモ


【動画配信】
板書で講義する場合は、黒板やホワイドボードの前で行うと思いますが、実際やってみると壁に向かって話しているように感じます。学生がいる気持ちでハキハキ話さないと、見る側には普段以上につまらなく映ってしまいます。また、文字の見やすさ、カメラの位置、声の大きさなどを含めて、動画編集は必須です。しかし、編集には莫大な時間がかかるため、普段から動画編集に慣れていない人にとっては現実的ではありません。一人で準備するなら、各テーマごとに短めの動画を区切って、リンクを並べておくのがお勧めです(5~10分の動画を数本、合計60-90分)。話す内容を間違えれば撮り直せばいいし、そもそも動画を見る側も15分以上は集中力が持たないです。何年も講義回数が重ねてきたら、毎年少しずつ編集して、まとまった動画にしておくのはありだと思います。


スライドを使う場合は、PPTで動画作成できます。「スライドショー」-「スライドショーの記録」から、各スライド毎に音声を録音でき、声を入れなおしたい時は、スライド毎に削除し、録音し直せます。ポインターを矢印からレーザーポインターに変えることもできます。録音出来たら、「ファイル」-「エクスポート」-「ビデオの作成」から動画を保存できます。20分程度ある動画の場合は、画質を最小限に落としたほうが良いです。

作製した動画のアップロードは、誰でも無料でアクセスできるyoutubeか、視聴者を制限できるmicrosoft streamでできます。アップした動画のリンクを、microsoft teamsに貼ることで、受講生のみに閲覧を制限でき、課題提出や成績管理もしやすくなります。また、Teams内でチャットの場を設けることで、学生同士相談しあったり、教員に質問しやすくなります。


講義する側にも受ける側にもお勧めのハードは、ipadとApple pencilです。Windowsの場合でも、液晶ペンタブレットを使うと、手書きの図を書いたり、即座に数式で説明したりする際に便利です。また、学生側から動画の声が聞こえないという指摘があるため、Webカメラのマイクよりもヘッドフォンセットを使うのがお勧めです。環境としては、プロゲーマーの情報が参考になります。

講義を受ける側の課題としては、学生が全員PCやスマホを持っているとは限らず、通信料もかかることです。ハードのない人は、サテライト室を利用してもらうしかないですが、講義時間を設定してしまうと密閉・密集・密接が避けられません。ハードのある人には、空き教室などを開放して、学内のどこかでeduroamを使ってもらうのも一つかと思います。大学によっては、モバイルwifiを無償貸し出ししているようです。

教科書は事前に指定し、書類もPDFでManabaやTeamsを通して事前に配布しておくと良いです。学生が家でも論文や教科書を読めるように、事前にVPN接続設定してもらいましょう。成績評価に関しては、各章ごとに穴埋め選択の小テストにするか、レポート課題にするのが良いと思います。レポートの締め切りも長めに取ったほうが良いです。学生が取っている講義は、あなたの講義だけではありません。

注意点として、学生が動画を倍速で見たり、PCの前に実際に居なかったりしても怒らないことです。実際に生講義しても、一部の学生は、寝たり、内職したり、代ヘンしたりしているわけですから、彼らにずるをするなという方が難しいと思います。講義を真面目に受ける事よりも、講義内容を理解してもらう方が大事ではないでしょうか?また、試験で手書き回答を求めるなら写メを取って送ってもらうのが一つですが、たとえライブで試験をしても、カンニング対策は無理だと思っておいてください。


【ライブ配信】
教員にカメラの焦点を合わせると、ホワイトボードがぼやけて読めなかったりするので、最初は苦労するかもしれません。焦点・輝度・カメラ角度の調整など、準備時間に数十分かかります。学生によっては不安定なネットワークで音声や映像が途中で切れる場合があります。少なくとも、学生の音声はミュートにしたほうが良いです。タブレットやスマホ、PCなど、端末がバラバラなので、学生によってはホワイドボードが見にくい人もいます。学生側のネットワーク接続時間を考慮して、授業時間は短めにしたほうがいいです。

Zoomの使い方@東京大学
オンライン授業実践ガイド@大阪大学

生で講義するのと違い、学生の理解度や進路スピードの確認が難しいです。また、生で講義するよりも早く話しがちなので、普段よりゆっくり話すと良いです。講義時間は余らせるぐらいがよく、質問タイムや準備時間などに当てましょう。少しでも教員側の労力を減らすなら、教員をモニタに映さず、スライドとポインタだけを映して声を入れるのがお勧めです。厳密にいうと、紙媒体であれば配布可能ですが、動画配信もライブ配信もインターネット上で利用する際には、著作物の権利者の許諾が必要になります。

オンライン授業の著作権について

マイクやカメラとして、スライドを上映しているPCを使用するのがいいと思います。画質・音質・背景にこだわりたい人は、一眼レフカメラ、ビデオキャプチャー、LEDリングライト、USBマイク、クロマキースクリーンを揃えてもいいかもしれません。ライブ配信ソフトはZoomとStreamがお勧めです。ライブ動画とスライドなどを同時に一画面に表示したい場合は、OBS studioが便利です。XsplitTwitchなどもあります。

質問やアンケートは、チャットだけでなく、Slidoでも随時受け付けられますが、学生の中にはタイピングが苦手な人もいることに配慮しましょう。学生数が300人とかになると、チャットも追いつかなくなる場合があります。スライドにはページ番号を入れておくと良いです。どれくらいスライドが続くのか分からないと、学生の集中力が持ちません。質問もしづらくなります。板書をしたい場合は、書画カメラで配信するのが一つです。CanvasGoodnotesも便利です。



【オンライン学会】
学会によりますが、Zoomで対応するところが多いようです。同時に何セッションも見れるので、非常に有意義そうです。参加企業によってはセキュリティの面で、WebExやTeamsが求められる場合もあります。

ポスター発表をTwitterやVRで行っている学会があるようです。主なVRソフトとして、VRchatとModulaHubsがあります。VRchatの方が本格的ですが、参加者に登録を求めなければいけないのと、ある程度高いスペックのPCやVR機器が必要になります。一方、Hubsは、だれでもPCから参加できます。

日本でもオンライン会議用のシステムを提供している企業があります。結構便利です。国際会議では、開催国次第でビザの問題で参加できない学生がいるので、遠隔会議はとてもいいと思います。

ケムステ Vシンポ
日本教育工学会

交流会・懇親会もZoomで行えますが、Remoであれば小グループに分かれて話せるので、より懇親しやすいと思います。オンラインなら壁の花になりにくそうですし、安く済むので、とてもいいなと思います。楽しくなければ、いつでも接続を切れます。準備はICTに慣れるまでが大変ですが、出張の必要がなく、片付けが簡略化でき、時間の有効活用が可能となります。運営側の負担を減らすことは、若手教員や学生数、企業の研究者数が減っている中、とても大事です。これからも便利なものは、どんどん取り入れてほしいです


【ラボ閉鎖】
大学内で感染者が出た場合、ラボを閉鎖せざるを得ません。少しでも感染を拡大させないために、居室や実験室の換気を徹底することにしました。入り口には消毒液を置き、マスクは必ず着用し、人の距離を1.5 mの距離をあけるようにしています。

・事前にVPN接続やデータ管理をしておく
・実験を止めて、論文や教科書を読む、論文を書く方にシフトする
・理論系、シミュレーション研究、考察を深めることを試みる
・試薬の管理や生物の世話の対応方法を考える
・google calendarなどを利用して、上記対応者のラボ利用時間をずらす
・ラボ内での連絡は、ZoomやSlack、Teamsを利用

日本では、人数が少なく、卒業に影響する(論文を3年以内に数本書かないといけない)博士後期課程の学生のみが、密にならない程度で実験を継続しているようです。

ケムステ
MIT

PIは、学生らを守るためにも、しっかりとコロナウイルスの正しい情報をチェックしておかないといけないですね。今回のコロナの間、学生の生活困窮も問題となっています。学生に給料を出す方法として、様々な制度があります。博士課程ならNEDOや科研費でRAとして雇用することができます。修士課程でもTAとして雇用が可能ですが、コロナ中は講義・実験がないので、どちらも難しいです。他の方法として、短期雇用(時給制)する方法があります。これなら修士学生でも対象内で、実験補助やデータ整理に対して、校費から給与を支払えます。今回、この制度を利用することにしました。

厚労省
Johns Hopkins Univ. 

数か月ラボを閉鎖する場合は、大学に備品管理の方法を問い合わせた上で、ラボ内のマスクや検査機などを医療機関に無償提供してもいいかもしれません。また、実験がメインのテニュアトラック期間中の方は、テニュアトラック期間の延長を申し出ましょう(日本の場合は、審査基準の方を下げるかもしれませんが)。

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