定常的なラボ運用

研究室立ち上げの時(所属してから3年間)は、たくさんの予算を必死に集めて、共用設備にはない装置の中で可能な限り高額のものを重点的に購入していました。インフラ整備にも投資しました。非常に辛かったです。


【お金集めのコツ】

CNSとかは不要です。必要なのはオリジナリティを持つことだと思います。テニュアトラック教員に着任する前に、世界で自分にしかできないことを持っていると強いです。その技術を軸に、流行りのテーマに合わせて、財団の助成金をかき集めました。使途は、欲しいものではなく、研究遂行に不可欠なものに限定しました。欲しい備品は科研費で。テーマ名は、結構慎重に考えました。財団のサイトに記載される唯一の文言なので、シンプルかつ分かりやすく、インパクトのありそうなテーマ名を意識しました。

オリジナリティのない内容で申請したものは全て落ちました。アイデアとしてはどれも面白かったと思うのですが、ダメでした。毎年4、5件出して、そのうち1件は採択されていたので、全体の採択確率としては高かったと思います。1件150万円以上のものばかりですが、全て単独代表で採択されました。採択されたら、必ずそのテーマで論文出版して謝辞に書くようにしていました。ちょっとした恩返しです。

時間も限られているので、(1年目)科研費・挑戦に本気で執筆したプロジェクトaを申請→(2年目)不採択の場合、ちょこっと直して財団Aにaを申請、科研費・挑戦に本気で執筆したプロジェクトbを申請→(3年目)不採択の場合、財団Bにaを申請、財団Aにbを申請、科研費・挑戦にプロジェクトcを申請…という感じで、申請しました。本気で書いているのは、年1つ(科研費・挑戦)だけなので、負担を増やすことなく、3年目くらいから自然と採択数が増え、好循環になりました。一方、別途、数年に1度、科研費・基盤を本気で書きました。流行りのテーマではなく、その研究分野の正に基盤となるもので申請しました。地道な内容です。

科研費と財団助成金を合わせて、単独で5年で3000万円くらいは集まったと思います。30代若手としては上々ではないでしょうか。でも、実際に体験してみて、ラボ立ち上げるにはこれくらい必要です。スタートアップで支給してほしいですよね。これくらいのサポートが得られるのは、今の日本ではRIKENくらいでしょうか?


【立ち上がってからの出費】

研究室が立ち上がってから(所属してから4年目以降)は、安全環境整備や消耗品に支払いの中心を移しました。「年100万円の予算で学生5人が3年で査読付き論文1本を書ける」研究環境を目安にしています。

・学会会員費(5千円x5人)

・ガスボンベの補充(1万円)

・酸素濃度計の定期補正(5万円)

・液体窒素(千円x12か月)

・個人線量計ガラスバッジ(千円x12か月x5人)

・廃液タンク、真空ポンプオイル、超純水、HEPAフィルター等の消耗品(10万円)

これに部屋代、ネットワーク代も加わって年30万円程度になります。地方国立大・助教に配分される運営交付金では賄いきれないので、適宜調整が必要になります。


実践的な学生教育(論理的思考力、文章執筆、プレゼンスキルなど)には研究活動が欠かせません。私の分野の場合、研究活動を行うには、上記に加えて、

・共用設備利用費(1万円x12か月x5人)
・試料費(10万円)
も必要になってきます。全て合わせて年100万円程度になります。この範囲であれば基盤Cでもラボを十分に運用していけます。学生教育も十分にやっていけます。この環境整備に3年間邁進しました。


【論文】
どのようにして基盤C以上を取り続けるのでしょうか。テニュアトラックの間は学内業務が少ないので、教員自身が実験して成果を出して論文を書いて、研究費を取ることができます。テニュアを獲得した後は、学内業務が増え、会議が増え、学生の人数も増えて、自分で実験できなくなるかもしれません。業績が減ると研究費を取りづらくなるので、悩みの種ですね。テニュア獲得前に、学生の成果だけから論文を書ける環境を構築する必要があります。自分の研究室が筆頭で、年に1報は論文を書いておきたいです。

修士の学生が毎年1人いれば、修了時に修論をまとめて論文にすることで、年1報を維持できます。しかし、修論の内容で論文にすることは、簡単ではありません。よくあるのが、M2とB4を組ませて、永続的に一つのプロジェクトを続けることです。実験の引継ぎも行われるので、学生としても教員としても負担や不安が小さいです。一方で、この体制では新しいプロジェクトを立ち上げにくく、遂行しているプロジェクトがニッチになりがちです。先輩の研究と何が違うのか、新規性は何か、卒論発表で聞かれることが多いです。

米国では、予算に応じてプロジェクトが決まるので、完全にではなくとも、一から立ち上げることも少なくありません。ただ、学生の多くは博士課程まで行くので、5~8年かけて成果を出せばよく、5年以上連続で毎年学生が一人入れば、この体制でも年1報は論文を出し続けられます。日本では多くの学生が修士で卒業するので、最大でも3年しか在籍しません。新しい研究内容で3年以内にまとめて論文に仕上げるには、数人で手分けして進めるか、研究内容を小粒にする必要があるかもしれません。個人的には、ラボ内でノウハウを固めて、マニュアル化するのが良いと思います。卒研で図1を作製、M1で図2を作製(+授業)、M2で図3・4を作製(+就活)して、国際会議に発表し、そのアブストをベースにして論文にまとめ上げる、といった感じです。


【メンバー数】
現時点で、若手研究者用のお金は充実しつつあります。国際競争を意識すると、足りないのは、人材です。ほとんどの学生は修士で卒業します。助教のラボにくる学生は、学部で卒業する場合もあります。地方大のラボに来る学生は、旧帝大の院に進学する場合もあります。それでいて、助教のラボに配属される学生数は毎年最大1人です。結果、どうしても0人の学年が出てきます。それでも、装置の引継ぎなどをスムースに済ませなくてはいけません。お金があっても人がいないというのは、日本の地方若手助教のラボ運営にとって、非常に難しい点だと思います。

日本の場合は内部進学が大半ですが、人数制限があるため、人を増やすには院生がお勧めです。つまり、卒研生を指導できる人数は制限がありますが、院生の指導人数には制限がありません。外部の大学卒業生に院試を受けてもらい、修士から入ってもらえば、ラボの人数を増やすことができます。では、外部受験生をどうやって増やせばいいでしょうか?東大・京大なら何もしなくても来てくれますが、それ以外の大学では、こちらからアピールする必要があります。

まずはラボのウェブサイトを充実させます。海外や企業との共同研究を活発にしている、実験装置が充実している、新発見やトップデータを出し続けているなどや、研究内容を高校生でも分かるように丁寧に書きます。一方で、変な哲学は書かないようにしましょう。次に、SNSを活用します。linked inやFacebook、twitterなどを利用して、高専や地方大、社会人などの外部受験者を歓迎していることをしっかりと伝えておくと、受験する側の気持ちのハードルが下がります。


【最後に】
私のラボも後20~30年続くわけで、学生教育に最低限必要な研究環境を維持していても、研究の大幅な発展は見込めません。国際レベルで活躍できる学生教育を行っていくには、年間で数百万円(学生一人当たり50万円以上)の予算が必要です。今は、学生の数も増えてきたので、常に大型予算獲得にも挑戦しています。頑張ります!


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