機器の購入と人の雇用

【消耗品や事務用品(<10万円)】
初年度は、予算(150万円/年)すべてが、下記物品と出張費で消えました。日本の研究費ではこれが限界です。共用装置だけでも論文を書くのには十分ですが、長期的にみると、やはり自分のオリジナルな装置が欲しいです。
  • ピンセット・ダイヤモンドペン
  • ビーカー・マイクロピペット・ブロー
  • サニメント手袋・ベンコット・キムワイプ
  • ホットプレート・冷蔵庫・超音波洗浄機
  • 実験台・グローブボックス・廃液回収・薬品保管庫
  • サンプルケース・デシケータ・ダイヤフラム真空ポンプ
  • レギュレーター・ブロー銃・ボンベ台
  • 半田・テスタ・はんだ・工具セット
  • PC・モニタ・プリンタ・テプラ・外付HD・USB
  • 机・椅子・棚・各種事務用品


【装置の部品・自作パーツ(10~100万円)
国際会議の旅費・参加費や論文投稿料を考えると、若手研究や基盤Cの予算では、下記装置を買えませんでした。財団の助成金を獲得できたときに、少しずつ購入しました。これらの装置を使って、ホール効果測定装置やフォトルミネッセンス測定装置、高温加熱炉を自作しようと思います。
  • オーブン・液体窒素保存容器・スピンコータ―
  • 金属顕微鏡・プローバー
  • オシロスコープ・ファンクションジェネレータ・DC電源・SMU
  • レーザー光源・除振台・暗室・レンズ・ミラー
  • 超純水生成器・高品質石英管
  • 真空ポンプ(RP、小型TMP)・チラー冷却水・マスフローコントローラ


【研究のメインになる機器(>100万円)
共用装置にはない、オリジナルな装置を手に入れるためには、早く基盤Bやさきがけに通すか、大型プロジェクトの分担者に入れてもらうしかありません。とはいっても、業績が出ていないと難しいので、他から譲ってもらう方が現実的です。ネットワーキングの重要性を知りました。
  • ドラフト(+排気系統工事)
  • 誘導加熱コイル・窒素ガス生成器
  • 半導体パラメータアナライザ・電磁石・分光器
  • 真空チャンバ・電子線銃

160万円以上の機器を購入する際には、自分で発注できず事務発注となり、仕様書が必要になります。200万円程度の物品であれば、うまく交渉すると160万円以下に値引いてくれることがあるので、発注前に割引の可能性を聞いてみるといいかもしれません。アカデミック割引の理由として、大学に納品すると、将来、学生が就職した企業から定価で多数購入してくれる可能性があるからだそうです。教育への投資というメーカーさんもいます。160万円以上の物品購入には、複数業者の見積が必要で、契約締結まで1か月、納品まで更に3か月かかることもあります。高額予算を年度内に使うためには、10月までに発注準備を整えておくのがいいと思います。

500万円以上になると、電子リバースオークション方式の一般競争入札が行われます。購入する側が、事前に仕様書と見積を準備して入札にかけます。買い手側は、見積額でスタートし、競争相手の提示金額を見ながら、仕様書に書かれた条件で価格を下げていきます。入札期間に最も安い価格を提示した企業が落札します。落札後に発注手続きに移ります。大学側のメリットとしては、普段見積を取らない企業から、想定以上の安い価格で物品を入手できる可能性があります。デメリットとしては、売り手側の価格競争が激化し、仕様書に書かれていないサービスを可能な限り省かれるので、仕様書の書き方が甘いと悪いサービスを受ける羽目になります。また、装置の組み立てに関するものであれば、業者が外部から購入した部品も入れた契約が可能ですが、ガスやオイルといった原料に関しては、その業者が作製するものでなければ入札内容から外す必要が出てくる場合があります。

一般競争入札では、手続き日数が更に必要になります。そこで、100万円分のパーツ5つに分けて発注すると、160万円以下の購入手続きで済みます。しかし、大学側に「意図的に入札を避けた(メーカーとの癒着が疑われる)」と判断されることがあるので要注意です(実質、基盤Bの予算でも、パーツに分けたり、自作するしかないのですが…)。一般競争入札で事前に見積をとる際に、メーカーから「ウチの特許技術を仕様書に入れてほしい」と言われることがあります。その特許技術が研究に不可欠なら書くべきですが、そうでないなら、たとえ値引いてくれるとしてもキッパリと断るべきです。研究所では、仕様書について入札者向け説明会を開かないといけないので、変な肩入れはできません。大学でも、後で事務やスポンサーに明瞭な説明ができないようなことは絶対にやめましょう。一方で、仕様書の記載内容を緩くしすぎると、思ってもみないメーカーから性能不十分な機器を購入する羽目になります。もちろん審査できるので、一度試して仕様書の内容を満たさないと判断できれば、断ることができます。2000万円近くになると、政府調達や国際競争入札になります。納品まで1年以上かかるので、予算の契約期間に要注意です。


【安全・避難用具】
学生たちに怪我をさせないためにも、ラボマネージャーとして絶対に整備しておかないといけない品々です。これらだけでも数十万円かかります。校費の余りで少しずつ揃えました。
  • 白衣・ゴーグル・マスク・手袋・シューズ
  • リトマス試験紙・ガスセンサ・酸素検知器・レスピレータ
  • fast aid・アイシャワー・消火器・消化布
  • ボンベスタンド・震災対策


【秘書の雇用(100~200万円)
マンパワーが足りなくなってくると、人を雇いたくなると思います。秘書の仕事としては、出張計画(航空券やホテルの手配)、研究費利用時の書類作業、お客さんや電話の対応、会議準備、研究成果報告(論文リスト)の更新などです。アメリカだと、留学生の滞在先の確保なども行っていました。学会運営や大型予算を確保した時は、出張や雑務が増えるので、秘書が必要になってくるかもしれません。

秘書は比較的簡単に雇えます。年105万円で、週2~3日13-17時とか、気軽に働ける条件にしておくと、応募が来ます。年200万円とかにした方が、社会保障などの観点で応募が少ないようです。実際、秘書に毎日来てもらう程の仕事はないかと思います。ただ、どの予算で雇用するか、という問題が生じます。安定的に数年間雇える予算(100万円以上の校費とか)があればベストですが、地方大の助教では非常に難しいです。そもそもテニュアトラック助教程度では秘書は不要かと思いますが、どうしても雇いたいが年100万円も出せないときは、他のラボと掛け持ちでもいいかもしれません。


【研究員の雇用(100~500万円)
ポスドクの雇用は非常に難しいです。PI側が支払う額は年400万円±50万円程度です。ここから福利厚生などが差し引かれるので、ポスドク側が受け取る給与は、最大でも月35万円程度でしょうか?大学の規定で決まっているので、これ以上の金額は出しにくいです。世知辛いですね。抜け道としては、特任助教という選択があります。仕事内容はポスドクと同じですが、肩書が教員ですし、給与も上乗せできます。ただ、当然ですが、テニュアトラック助教では教員を雇うことができないので、この方法は使えません。また、大学が雇用する形になるので、審査も一人ではできず、雇いたい候補者を他の教員の判断次第では雇えなくなってしまいます。

ポスドクは2年間以上の契約で公募しないと、人が集まりません。当然ですよね。1年雇用だと、採用されて生活が落ち着き、ようやく研究が軌道に乗り出す頃に、また就活が始まるのですから。転職の難しい日本では、日本人の若手研究者を雇用する際、その後の就職先も考えてあげないと問題になる場合があります。「審査時に約束した」、「いや、そんなこと言ってない」という事態を避けるために、審査時に契約や雇用に詳しい事務員に同席してもらう研究所もあるようです。雇われる側もいい条件(「パーマネントで雇うよ」、「独立したポジションだよ」、「いきなり准教授だよ」など)をちらつかされた時は、書類やメールで証拠を残しておいた方が良いです。

2年以上の間、年500万円の研究予算を日本で取ってくるのは至難の業です。JSTやNEDOなどの大きなプロジェクトを取れれば雇えますが、プロジェクト専用のポスドクになるため、ポスドク側の仕事が拘束されてしまいます。(ちなみに、NEDOでは、博士学生に給与を出すことができます。産総研理研NIMSなども、博士学生に給与を出してくれます。これらは学振に不採択だった学生にもっと周知させたいです。)

ベストなのは、ポスドク側が学振PDに採用されることだと思います。しかし、学振PDを取った人は、テニュアトラック助教のラボには普通来ません(自身が将来PIになることを目指しているなら、ラボ立ち上げに参加することは大変貴重な機会なのですが)。大御所のラボに行きます。かといって、基盤Bでも足りないかもしれません。そんな時は、別予算を利用します。最初の数か月は科研費、残りの数か月は助成金といった風に。結果、単年度契約で毎年更新という雇用条件になりがちです。こんな条件でも敬遠されないくらい魅力的な人望と研究目標が、日本のPIには求められているということ?(キツイ)

プロジェクト内容によっては、派遣会社に依頼するという方法があります。時給で支払い、勤務日程も決められます。派遣会社には、修士・博士卒の実験スキルが高い人も多々おられます。週5で9~17時で雇うと、ポスドクの雇用とあまり人件費が変わらなくなりますが、ポスドクとの大きな違いは、契約期間満了後に、彼らのその後の就職先の面倒を見なくていいことです。また、測定のみの依頼であれば、週1でもよいので、年100万円もしないです。これなら基盤B程度でも十分に雇うことができます。

講義を受け持っている場合は、研究費で非常勤講師を雇うことで、自身が研究に専念するという方法があります。欧州などでよく見られる方法ですが、日本の研究費のシステムでは、なかなか非常勤講師を雇うのが難しいです。

現在の日本のテニュアトラック助教にとって、マンパワー不足は解決しがたい問題です。ラボがマンパワー不足になる前に、共同研究先を増やしておくこと&事務処理を簡便化しておくことをお勧めします。


【デバイス研究室の例(卓越研究員・テニュアトラック)】
初年度:500万円(スタートアップ+校費)
 ドラフト:150万
 電気・排気系統工事・安全対策:50万
 研究用試料:50万
 共用設備利用費(自分+学生1人):50万
 実験台・冷蔵庫・薬品保管庫など備品:100万
 手袋・ピペット・試料ケース・ベンコット・薬品などの消耗品:40万
 PC・机など事務用品(自分+学生1人):40万
 学会会員費・出張費・論文投稿費:20万
2年目:550万円(科研費(若手)+スタートアップ+校費)
 金属顕微鏡:100万
 SMU:100万
 プローブステーション:100万
 半田・ケーブル・電気工具など:20万
 研究用試料:20万
 共用設備利用費(自分+学生2人):70万
 超音波洗浄・グローブボックス・ホットプレートなど備品:100万
 PC・机など事務用品(学生1人):20万
 学会会員費・出張費・論文投稿費:20万
3年目:150万円(科研費(若手)+校費)
 研究用試料:20万
 共用設備利用費(自分+学生3人):90万
 PC・机など事務用品(学生1人):20万
 学会会員費・出張費・論文投稿費:20万

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