7-1. 共同研究

I.始め方
共同研究は「大きな成果が出てから」でもいいですが、成果がなくても「いいアイデアが出てから」始められます。成果の少ない着任したての若手教員が、尻込みする必要はありません。アイデアは一人では達成できないくらい、挑戦的で規模の大きいものがいいです。その方が、共同研究の話を聞く側も楽しいです。大学同士であれば、高い専門スキル・知識を活かして、少ない研究費でも大きな成果が狙えます。
  1. ウンウン唸って、アイデアをしぼり出す
  2. 実践するのに必要な仲間を集める
  3. 助成金を申請する
  4. 助成金が確保できたら共同研究する。できなければ、解散
外部サイトですが、大学との共同研究の提案方法はコチラ。世界でも自分にしかできない成果が出た場合は、1を飛ばして自然と2から始まります。これは特殊なケースなので、若手にはあまり期待できません。

学際研究であれば、2から始めてもいいかもしれません。分野外の人と知り合い、その研究の詳細を聞くことで、自分が貢献できそうなことが見つかれば、1に繋がります。ただ、会議中は詳しい内容を議論・理解することでいっぱいいっぱなので、その後に懇親会があれば、視野の広がった軽い会話ができ、1に繋がりやすいです。他にも、生物と物理の研究者で話し合っても、お互い一緒に仕事するのは難しそうだなぁという感想で終わることがありますが、間に化学の研究者も交えると、会話が橋渡しされて、3者での共同研究に繋がることがあります。

これまでの私的な経験ですが、国内大学との共同研究で注意してほしい相手が、旧帝大の講座制ラボです。平気でこちらのリソース(人と時間)を使おうとしてくる人がいます。学生を派遣することも自分たちで実験をすることもなく、成果に共著併記を要望してくることがありました。共同研究というのは、相手が東大の教授でこちらが地方大のテニュアトラック助教でも、立場は対等です(相手が大型プロジェクトの代表で、こちらが分担であれば話は変わってきますが)。また、プロジェクトの明確なゴールも告げないまま始まり、少しずつ仕事が増やされ、途中でやめようと思った頃に「これは学生の修士論文に関わっているので」と言われたこともありました。これらの方々は、海外のラボに共同研究提案をしたことがないのだと思います。これらの経験以後、大御所の先生であっても、提案書を作成してもらい、内容が納得できないときは断ることにしました。

企業相手であれば、3と4が不要です。一方で、特許に繋がるプロジェクトが好まれます。ここでは企業との共同研究方法について記載させて頂きます。


II.アプローチ方法
企業と共同研究する際、様々なアプローチがあります。
  1. 学会で意気投合する。インパクトのある成果がないと難しいです。業界でトップを走っているとか、国際会議の招待講演に呼ばれるとか、Natureに出版されているとか。流行りの分野だと尚良いです。
  2. 産学連携シンポジウムに参加する。起業する段階まで至れば、深い話までもっていける。学会で発表しているような内容を話しても、事業化からは遠すぎて相手にしてくれない場合が多い。
  3. 企業主体の研究公募に応募する。大学は研究を行えばいい。それに関する知財に企業が関わってくるが、研究費をサポートしてもらえる。
  4. 直接売り込む。自分の成果を売り込むのはかなり難しい。大抵は相手にされない。企業側の製品を自分の研究に利用したい場合は、可能性がある。特に新分野で使いたい場合など。

2の、産学連携シンポに数回参加した経験からすると、少なくとも企業・研究開発部も同席すべきです。事業部の方は幅広く勉強していて何でも知っていますが、内容を理解せずに、知識だけを取り入れている場合が多かったです。一方で、大学教員は、専門分野に限れば世界の誰よりも詳しいのだけど、マーケットのことを「知らない」ことが多いので、普段の学会のノリで話しても、事業部の方に研究の魅力を理解してもらうのは非常に難しいです。事前に、「マーケット」、「その事業分野での優位性」、「現在の立ち位置と今後の計画」までまとめておくと、話が進みやすいです。

企業展示会の参加準備

日本の企業では、研究開発部でも所長や部長でないと権限が小さく、実際に共同研究まで持って行くのに苦労することが多いです。所長や部長に会うには、JSTやNEDOの委員会に参加するのが良いです。委員会に呼ばれるような成果や人脈ネットワークを形成しておくと、共同研究に発展しやすいです。結局は1に繋がるので、原点回帰で、無名で信用も少ない地方大学の若手教員にとっては、『その研究分野で世界を牽引する』ことに専念するのが良いです。つまり、研究に専念することが、結果的に企業との共同研究に発展していきます。ぜひ、とがった人材になろう!

3の、企業(研究開発部案件)が研究費をサポートする、大学が特許を書く、という関係は無難ですが、この関係を得るには、やはり学会でのアピールと口コミが重要だと感じます。大学運営陣を通じてトップダウンで話が来る場合もあります。ただ、日本の企業は、研究開発部にはお金を動かす権力が弱いようです。実際、サポートされるのは年100-200万円程度(1~3年間)が多いです(米国なら年2000-3000万円(3~5年間))。そして、この関係でも、打ち合わせで破綻することが多いです。企業側が求めている技術を大学側が提供できないからです。特に、『特許を一緒に出願できるか』という点は重要です。最初は、企業側は「その研究に興味があるので、現状を教えてください」という形で打ち合わせに来る→思ったより研究が進んでいない・産業応用が見込めない→見合わせ、という感じです。これで、何件もの打ち合わせが破談になりました。学会だと相手に伝えるには内容が難しすぎるので、こればっかりは何度もいろんな企業と打ち合わせを重ねるしかなさそうです。たとえ企業側から連絡があっても、破談することはよくあるので、オンラインで打ち合わせをするのがお勧めです。


III.共同研究を提案
ネットワーキングは産業界とも重要です。大きな成果が出していても数年すれば忘れられるので、国際会議には毎年コンスタントに出た方がいいです。企業との共同研究であれば、安くサンプルを手に入れることができます。本来買うべきもの(50万円)が、共同研究という形にすることで10万円で譲ってくれたことがありました。時には、100万円かかるものも無償でくれたりしました。

企業によっては、共同研究費をもらうこともできます。今のところ、国内中小企業で100万円、国内大企業で250万円、海外企業で500万円くらいのようです(米国の大学では2000万円程度だったので日本の大学と組むのはお買い得なはず)。日本では間接経費(overhead)は10%が多いです(上乗せすれば知的財産を企業側に譲渡する国もある。米国ではそもそも50%)。なので、年間300万円程度であれば企業側も資金提供してくれることが結構あります。また、企業側の人を大学に派遣する、企業の装置を利用する、など幅広く交渉の余地があります。他にも寄付金としてもらうこともできます。こちらの方が大学としては資金の使い道の融通が効いて嬉しいのですが、知財の観点で企業側のメリットがなくなってしまいます。

学生1人が研究を遂行する上で必要な資金(最低年500万円)
・共用設備利用費:60万円(月5万円x12か月)
・人件費:170万円(時給850円x8時間x250日)
・試料代:50万円
・特許出願費:40万円
・論文投稿費:15万円
・出張費:15万円
・間接経費:150万円
本来なら、日本でも、修士だと2年間なので計1000万円を請求すべきです。しかし、日本では学生の人件費が考慮されない場合が多く、2年間で計200~300万円程度になりがちです。一方で、米国であれば、学生の授業料と福利厚生がかかり、間接経費が50%なので、上記の様な金額の差が生じます。これを実際に米国企業は払っているわけですが、日本企業も、学生の人件費を払うのが当たり前だと思う社会になってほしい(学生を搾取しすぎ!)。


IV.手続きと流れ
手続きは、大学の産学連携部署に聞いてみてください。大まかな流れとしては、
  • (4月中旬)企業と教員で打ち合わせ
  • (5月上旬)企業側が大学に共同研究の申し込み
  • (5月中旬)大学と企業の事務同士で知財などの打ち合わせ
  • (6~7月)企業から大学に研究費が振り込まれる
  • (7月~)教員が大学の口座を通じて研究費を利用
つまり、教員がやることは、企業との打ち合わせと申込書の作成くらいです。時に、知財で大学ー企業間で話がもつれることがあります。急ぎの場合「特許事項を申請時に話し合う」とできるかも検討してみてください。


V.注意事項
企業との共同研究に関する大学側のデメリットは、特許が最優先になるので、学会発表や論文投稿し辛いことです(特許は短ければ、2か月で出願可能です)。博士なら5年あるのでいいのですが、修士だと2年しかありません。企業との共同研究をメインテーマにしてしまうと、学生の卒業や就職に関わってくるので、サブテーマにしておく方が無難です。一方で、サブにすると学生では進捗が遅く、人海戦術が使える企業としては、大学に依頼する必要がなくなります。win-winになるには、長期的で挑戦的なプロジェクトがお勧めです。


VI. さいごに
もし日本で「30歳助教」が相手にされないようでしたら、海外企業・大学と組むのがいいです。海外では年齢は関係ありません。助教も立派なプロフェッサーです。アイデア次第で、快く引き受けてくれます。とにもかくにも、若手教員にとって最も大切なのが、「研究協力者」であることは間違いありません

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