大学運営と国家プロジェクト

【はじめに】
若手研究者は、任期付きが多いため自身のポジションも安定せず、現状を維持するだけで精一杯です。少なくとも私はテニュアトラック期間中がそうでした。しかし、大学でのキャリアというのは、将来の学生教育の方向性を決める立場にも繋がっているので、テニュアを獲得した今、もっと長期的な視点を持って教育や研究について考えないといけないな、と思うようになりました。

個人的には、日本の場合、各世代が下記の役割を担うことで、うまく社会が回ると思っています。
  • 若手(20~35歳):研究・勉強に没頭する、障害をシニアに提案
  • 中堅(35~50歳):中・長期的な政策提案と実行、挑戦的な研究
  • シニア(50~65歳):短期的な政策、若手の意見を聞いて困りごとを解決
若手は、全力で研究に邁進するのが良いと思います。その上で、壁となること(妊娠出産、ハラスメント、予算不足、不平等な審査など)や効率の悪いシステム(ポスト申請が郵送、教授の雑用を請け負うなど)を、どんどんシニアに提案していってほしいです。シニアは、若手の意見をよく聞いて、すぐに対応して頂きたいです。稀に「あなたたちは恵まれている」と言って聞く耳を持たなかったり、時代や状況に合わない政策を提案する人がいますが、国際競争において日本の若手の研究環境はまだまだ不十分です。今後の若手の更なる活躍のためにも、素直に意見を取り入れて、どんどん研究環境を良くしていってほしいです。そして、中・長期的な戦略を担うのが、中堅です。自分たちで提案し、行動し、定年までその責任も担ってほしいと思います。そのためにも、若手の間にいろんな経験をし、ネットワークを広げ、視野を広げて頂きたい。このように各世代が、それぞれの仕事を全力で担うことで、日本の研究環境は良くなっていくと思います。


【国家プロジェクト】
JSTやNEDOでは、若手用の大型プロジェクトがあります。30年後、日本発祥の産業に成熟させるため、その研究開発の種を作ってもらうプロジェクトです。下記の大学運営同様、30年後でも現役なのは、今の30代の若手研究者になります。したがって、大学や国研の30代の研究者が、5~10年かけて非常に挑戦的な研究課題に取り組みます。その後、中堅研究者となった際、さらに大きな国家プロジェクトとして産学官が連携して、製品開発にもっていく流れになります。

政策としては、温暖化、少子高齢化、エネルギーといった、地球規模の問題解決に向けた取り組みが多いです。若手研究者にとっては、学生やポスドク時の成果からオリジナリティを見つけて、自分のラボを立ち上げるので頭がいっぱいかと思います。その独創性高い(時にはニッチな)研究から、更に視野を広げて、地球規模の課題解決に結び付けるかまで考えるのは、それはそれは大変です。でも、そこを求められているわけです!!

ヒアリングに行くだけでも、とても勉強になります。ノーベル賞クラスの研究者達から、俯瞰的な視野でアドバイスがもらえるからです。産業への持っていき方を教えてもらったり、さらに挑戦的なものへと一緒に課題修正したりすることもあります。30代の間にこういう幅広い視点を持つことや、プログラムオフィサー周辺の人脈を紹介してもらえることは、非常に貴重です。忙しい中大変ですが、大型プロジェクトにも積極的に応募するようにしています。


【大学運営】
昨今取り組まれている、指定国立大学法人や卓越大学院などは、10~30年先の大学の在り方が問われています。30年後でも現役で勤務しているのは、今の30代の教員だけなので、その政策を実際に実行していくのは私たちになります。見て見ぬふりはできません。各職に対する役割は下記の通りだと思います。
  1. 学生:基礎的な素養(論理的思考など)を学ぶ、研究に必要な能力(論文執筆など)をつける
  2. ポスドク:自分で出したアイデアで、独力で論文執筆や予算獲得できるようになる
  3. 助教:当該分野で世界トップの研究者(国際会議で招待講演され続ける存在)になる
  4. 准教授:大学委員や学会委員において、学科や分野の現場リーダーとして率いる
  5. 教授:大学運営や学会運営において、将来の方向性を定め、学科や分野を率いる
  6. 学長・副学長:30年後の将来を見据えて、国や大学の教育の方針決定に関わる
私は、「研究室を十分に独立して運営できる&3を達成した」と評価されたことで、テニュアを獲得することができました。これからも当該分野で世界のリーダーであり続けるためには、研究活動は全力で走り続けないといけません。その中で、20~30年後には自分たちが大学を率いていく存在になるため、これからは、5の仕事を見据えた学生教育や研究環境についても、考えていこうと思っています。
  • なぜ大学に国際性が必要か?今後も重要か?
  • 日本(大学&企業)は、国際競争にどう戦っていけばいいか?
  • 異分野の垣根が高い日本で、学際性はどのように広げればいいか?
  • 大学の講義はオンラインではダメか?対面でなければならない活動とは?
  • 今後の教育では何が求められるか?ポストAI時代とは?
  • 今後、どのような研究を行っていきたいか?
  • どのようなイノベーション(分野開拓)を起こすか?
  • どのような社会を目指し、人材育成に携わりたいか?

他にも考えないといけないことは山ほどあります。国や大学は、コロナ対策を講じたことで予算がないと言われる中で、今後、将来の学生達のためにどのような環境を整えられるか?国際競争力を身に着けるには、弱者を切り捨て、流行りの研究にお金と人材を投資するのが手っ取り早いです。しかし、これは短期的な「成功もどき」しか結果が期待できません。分野が偏ることで学際性の面白みが欠乏し、教員は過度な国際競争に疲弊し、各大学の特徴が段々失われていきます。限られた予算と人材で、国際性・学際性を育みながら、長期的戦略でどのような特徴ある大学にしていくか。それを30年後に担うのは、今の若手教員になります。少しずつ考えていきたいと思います。


【おわりに】
大学運営でも国家プロジェクトでも、30年後の日本を背負っていくのは、今の若手研究者なわけです。私たち若手研究者が30代の時から長期的な視点で考え、地球規模の課題に果敢に挑んでいくことで、今の子供達がよりよく育ち、学び、そして社会で活躍し、30年後、日本だけでなく世界がより良くなると文科省や経産省などが期待しています。その明るい未来を実現するために、国が教育を改革し、政策を提案し、今の若手研究者達に莫大な資金を投入しているわけです。テニュアを獲得し、こういう長期的な視点を持った時、研究や教育への取り組み方も変わってきました。少しでもより良い未来に貢献できるよう、頑張っていきたいと思います!!

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