実験室の施工

【まずは…実験室の交渉】
実験系の研究室の場合、採用される前に、どの程度の大きさの実験室をもらえるかを話し合っておくことは非常に重要です。

建物の数は決まっており、新しくビルを建てることは容易ではありません。限られた部屋数の中で、教員・学生・事務員・技官の部屋、実験室、授業用の教室などが割り振られます。その中で、多くの学生を抱えている教員に多くの実験室が当てが割れるのは当然であり、新任助教がどの程度のスペースをもらえるかは未知です。実験室の交渉相手は教授達であり、後でお願いをした所でどうにもならないこともあります。

日本では、学科毎のスペースでは、部屋が学科全体で決まっている場合が多いです。実験室利用の自由度の幅は広く、一度もらえると立ち退きを強制されることもありません。テニュアトラック採用の場合、退官した教授のスペースを空けて、新任教員に回すことになります。一方、公募スペースでは、部屋がプロジェクトで決まっているので、プロジェクト最終年度に「今年度中に立ち退いてください」と突然言われる可能性があります。新任教員としては、学科毎のスペースをもらえればいいのですが、部屋が装置の墓場になっている場合も少なくなく、「実験室をもらえない」可能性があるわけです。


【実験室の調査】
実験室を見学し、そこで自分のやりたい研究ができるかを確認します。
 ・部屋の構造と大きさ
 ・重量のあるものでも床が抜けないか
 ・エレベーターや玄関入口の大きさ
 ・何階か
 ・廊下の幅や天井の高さや実験室の入口の大きさ
 ・避難経路や安全装置(火災報知器・エアシャワー・消火器など)
大型装置の場合、玄関入口やエレベーターに装置が入らない可能性があります。その場合、クレーンで装置を釣り上げて、その階に入れる方法があります。次の関門は、廊下の幅と実験室入口の大きさです。そこがクリアできれば、装置は入ります。建物によっては、オフィス用に設計されていて、実験用の安全設備が不十分な場合があります。その場合は、自分の予算で準備する必要が出てきます。

次に、最低限のインフラが揃っていることを確認します。
 ・電源(200V、3相交流とか)
 ・実験排水(化学薬品を流せるか)
 ・空調、廃棄(ドラフト用)
 ・騒音や照明(暗室化可能か)
 ・有線LAN
装置によっては特殊な電源が必要です。配電盤を開けて200V30Aと書かれていれば、40Aの電流が必要な装置は使えません。電源工事をする際は、事務所を通じて施設課に連絡することで、大学内の方が外部に電源工事の委託をしてくれたりします(配電盤中のブレーカーの増設:5万円程度、3相交流を建物内に敷設:35万円程度)。

薬品や液体窒素を使う場合は、排水や廃棄、空調設備が必要になります(ドラフトの空調施工:100万円以上)。大学内に機械工作室(ガラス細工、金属加工、金属圧着など)がある場合もあります(ほぼ無料)。データ管理にクラウドを使う場合は、ネットワーク設定が必要になります。事務所にIPの開通申請を行い、自分でルーターを購入し(1万円程度)、設定すれば使えます。

ここまで揃っていると十分に実験ができると思います。最後は、
 ・養生テープの必要性
 ・地震対策
 ・生活用水、飲食
などのルールについて確認しておくと、より良いかもしれません。施工の一部は、大学の技術職員が行ってくれる(かなり安い)ことがあります。装置の搬入を業者に頼む場合は、装置の大きさや移動距離よりも人件費がメインでかかります。同じ部屋の移動でも50万円程度かかることがあります(遠方からの輸送:200万円程度)。退官して、他の教員に引き継ぐことなく研究室を畳む際には1000万円残しておいた方がいい、とも言われています。


【特殊な利用】
化学薬品を使う場合は、事前に薬品排水手続き、薬品管理・登録手続き(システム導入:100万円)、薬品設置方法、廃棄処理方法を確認しておく必要があります。薬品は教員であれば一般業者から購入できます。廃液は、酸・アルカリなどで分かれており、固形物や水銀を含むか、などで細かく分類されています。それぞれに対応した廃液タンクを購入する必要があります。薬液専用のビーカー・ピンセットだけでなく、白衣・手袋・ゴーグル・キャップ・シューズ、消耗品(キムワイプ・ベンコットン・サニメント手袋)などが必要になります。3次廃液でもアルコールや酸などを実験排水に流す際には、事前に申請が必要です。アルコールなどの可燃物を取り扱う際は、機械泡などの特殊な消火器の設置を推奨します。

高圧ガスの場合、事前に搬入手続き、設置方法、回収方法確認しておきます。特に設置場所や設置方法は重要です。シランなどの引火性ガスや塩素などの腐食性ガスは、重大事故に繋がる恐れがあります。ガス検知器は、ガス会社からレンタルや購入(調整費込み:20万円程度)できます。ボンベ台は、床もしくは壁に固定しないといけませんが、ガス会社が設置してくれます(台費用込み:5万円程度)。自分でいろいろ購入してしまう前にガス会社にどんなサービスをしてくれるか連絡することをお勧めします。10Lや3.4Lボンベは容器を購入しないといけないため、初期費用が高くつくのと、充填交換時に1週間程度利用できなくなります。Heなどは数か月を要します(最近、新規顧客を認めていないので、新しくラボを設営する人は要注意)。47Lは容器がレンタルできるため、ガスを全部使う可能性が低くても47Lの方が利便性が高いです。

液体窒素も同様です。こちらも重大事故を引き起こす可能性があります。専用の用具(タンク・手袋・酸素濃度検知器)や設備設計をしておいた方が良いでしょう。

レーザー関係も、レーザー使用中の掲示を扉の外にしておいたほうがいいです。専用のゴーグルや、波長・強度によってはオゾンが発生するので酸素濃度検知器、ガスを使う場合はガス種によっては専用設備が必要になります。

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